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2008/08/18 22:38
スプラインシャフトやボールネジなどのシャフト材にSCM435やSUJ2 AISI4150Hなどが
使われているそうなのですが、圧延上がりの棒鋼を焼入・焼戻し
処理をしてから、矯正・切断加工の後、高周波焼入・焼戻しを行う事があると聞いた事があります。実際にそのような焼入処理を2回も行っているケースがあるのでしょうか?
素人的に考えると、焼入・焼戻し した後に高周波処理してもさほど表面
硬さは変わらないと思うのですが、他にどんな狙いがあるのでしょうか?
ご存知の方 教えてください。
高周波焼入れ前に調質するメリットは下記の2点と思われます。
1.回答(2)の「お礼」でかとちゃんさんが仰る通り、強度がアップされること。
高周波焼入れの前組織は、圧延ままの場合は粗粒パーライトで、調質材はソルバイトとなりますが、
一般にソルバイトの衝撃強さ(靭性)は粗粒パーライトの約3倍とされています。
2.圧延ままの素材に比べ調質材の場合、焼きが深くかつ均一に入ること。
焼むらがある際に現れるバーバースマーク(縞々模様)は見た目にもかなり低減されるはずです。
但し現在では、高周波焼入れ前に調質するのはレアケースで(コストがかかる為)、圧延ままの素材に
いきなり高周波焼入れする事例がほとんどです。
強度的に不安がある場合でも、焼ならしで対応することが多いと思います。
焼ならしした場合の前組織は微細パーライトとなり、粗粒パーライトに比べ衝撃強さは約2倍です。
ちなみに、圧延ままの素材でも調質材でも、また焼ならし材でも、焼入れ後の表面硬度は一緒です。
ただ、焼戻し温度が異なり、調質が焼戻し温度400度以上なのに比べ、高周波焼入れ後の焼戻しは
一般に200度前後の低温焼戻しを採用しています。
SCM435を調質→高周波焼入れ→低温焼戻しした場合、内部の硬度はHRC35前後で靭性に富み、
表面硬度はHRC45前後で耐摩耗性に優れている、と言えます。
ご存知とは思いますが、焼戻し温度が高くなるほど硬度は下がります。
「耐摩耗性重視なら、わざわざ低温焼戻しで硬度を下げるよりは、焼入れままでいいんじゃないか」
と思われるかもしれませんが、じつは低温焼戻しをした方が耐摩耗性はアップします。
これは焼入れ時の残留応力が悪さをするせいとされています。
200度の焼戻しで残留応力は50~60%低減され、多少硬度は犠牲になるものの、耐摩耗性は向上します。
まず残留応力ですが、圧縮・引張問わず耐摩耗性を低下させます。
耐疲労等多くの場合は圧縮の残留応力が有効ですが、対磨耗ではNGとされています。
残留応力を完全に除去するには再結晶温度(450度)以上の加熱が必要ですが、
そうすると硬度が下がり過ぎてしまいます。
そこで残留応力もそこそこ除去でき、かつ硬度もそれほど下がらない200度を採用する訳です。
焼戻し温度による組織の変化ですが、200度では「焼戻しマルテンサイト」という組織になります。
炭素の析出はまだ目立たず、見た目(顕微鏡組織)にはマルテンサイトと大差ありません。
焼入れによる残留応力が除去された状態と言えます。
400度ではトールスタイト、600度ではソルバイトとそれぞれ呼ばれ、過固溶されていた炭素が
析出することで組織の一部がセメンタイト+フェライト化し、靭性がアップします。
詳しいご説明ありがとうございます。
粗粒パーライト靭性<焼ならし微細パーライト<ソルバイト で衝撃値が高く
なるのですね。衝撃値は今まで測定した事がないので勉強になります。
高周波焼入れ後に低温焼戻し(200℃)処理をする事で、耐摩耗性が向上
するというのは、興味深い話です。圧縮の残留応力が耐摩耗性にはあまり
よくないという事なのでしょうか?素人の私としては、まさに説明の通りの
高周波焼入れままにしてしまえばと発想してしまいます。
大変詳しい説明なか、もしよろしければ1点教えて頂きたいのですか、
高周波焼入れ低温焼戻し(200℃)後の鋼の組織はマルテンサイトなので
しょうかそれともソルバイトなのでしょうか?
大変勉強になりました、ありがとうございます。
2008/08/23 11:17
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SCM435などの圧延上がりの棒鋼は結晶粒が比較的大きなパーライト組織になっているため、調質(焼入れ後、比較的高い温度で焼き戻し)して微細なパーライト(トルースタイトまたはソルバイト)にして強度を上げるのが一般的です。その後、表面だけ焼入れ(高周波焼入れ)して表面のみをマルテンサイト組織にし、耐摩耗性を向上させているのです。
パーライトはフェライトと黒鉛が層状に重なり合ったものです。
フェライトは炭素をほとんど固溶しないα鉄(体心立方格子)のことです。
固溶とは固体の状態で結晶粒の内部に他の原子が入り込んでいることです。
鋼を再結晶温度以上に加熱すると、γ鉄(面心立方格子)となりの結晶格子内に炭素原子が浸入して行きます。この状態から急冷すると炭素原子が結晶粒界に出て行く暇が無く、フェライトの結晶格子内に閉じ込められます。この炭素原子が閉じ込められた状態がマルテンサイトです。
つまり、炭素を固溶したα鉄がマルテンサイトです。
マルテンサイトは炭素原子により結晶格子の並びがゆがめられており、結晶格子を歪ませるためには通常より大きな力を必要とし、このためマルテンサイトは硬いのです。
鋼の詳しい組織解説ありがとうございます。調質(焼入・焼戻し)後の組織
は、マルテンサイトではなく厳密にはトルースタイトorソルバイト組織
なのですね。組織名は聞いた事があるのですが、実際に顕微鏡組織を見ても
あまり区別が分からずに、ごっちゃに言葉を使っていました。
2008/08/23 11:02
貴殿の理解通り、
※ 中央部は、通常の焼入れ焼き戻しして、硬度上げると云うより
引張強さを上げ、シャフト等の剛性を高める
※ 表面部は、
* ボールねじは、ボールが接触する
* スプラインは、軸受が接触する
ために、耐磨耗性を向上する必要があり、更に硬度を上げる処理が
高周波焼入れです
高周波焼入れは、表面のみを発熱させ易く、急冷も容易<局焼きに適す>
剛性も、パイプ効果で更にアップ
全体が焼入れのみでないので、靭性もある、
と、なります。
有名な**重工の資料では、<小生の先輩&先生から貰った物>
★ S55C ;焼入れ焼き戻しHRC25~30、局焼き;HRC50以上
★ SCM435;焼入れ焼き戻しHRC25~30、局焼き;HRC50以上
★ S45C ;焼入れ焼き戻しHRC20~25、局焼き;HRC40以上
とあり、焼入れのみとの硬度差はあります。
<局焼き;プロックをストッパーとして使用する当り面に施す等が用途>
詳しいデーターも添付し頂き、ありがとうございます。
2008/08/23 10:56
SCM435やS45C等は、焼入れ焼き戻ししても、余り硬度は上がりません。
<HRC30前後で、HRC50以上にはならない>
しかし、焼き入れ焼き戻し前より、硬度が上がっている(引張強さも上がっている)事になります。
その後の高周波焼き入れは、表面のみの局焼きと同じで、硬度がHRC40以上
に上がります。<中は、丸H材程度の硬度と、靭性がある(残っている)>
この事は、より強い(高剛性な)『スプラインシャフト』や『ボールネジ』を作るのに
適しています。
SUJ類は、貴殿の記述に近い内容を示します。
内容が少し入り乱れていませんか?
御回答ありがとうございます。頭の中が整理できました。
いきなり圧延材に高周波焼入れするよりも、一旦 焼入・焼き戻し処理をして
内部をマルテンサイト組織にし、圧延材よりも高強度・鋼靱性にした後、
更にボールの習動面に高周波焼入れをして、表面硬度を更に硬くし耐摩耗性
を向上させる為との理解でよろしいでしょうか
1点のみ不思議に思うのですが、高周波焼入れをすると同じ炭素量でも
ずぶ焼入・焼き戻し処理よりも硬度があがるのでしょうか???
2008/08/22 00:20
目的が見えませんが恐らくですが、最初の焼入れ焼き戻しの目的は調質では無いでしょうか?入荷する素材の硬度にもよりますが、クロモリ等は調質目的で焼き入れ焼き戻しする事があります。
ご回答ありがとうございます。
2008/08/22 00:21
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